今回は転職と年齢の関係について記載します。
「転職」という概念は終身雇用や年功序列の崩壊で大幅に代わりつつあります。
めまぐるしい変化を続ける社会状況やビジネス環境、それを支えるテクノロジ―の進化を目の当たりにすると、「新卒で大手に就職すれば定年まで安泰だ」と考えること自体が絵空事かもしれません。
「自分の将来を会社は保障してくれない」と嘆くのは簡単ですが、社会があまりに早く変化せざるを得ない現状では、会社に依存することは、むしろ自分の首を締めることに繋がるのです。
自分の能力をいかに成長させ、市場価値を高め続けるためにどうすればいいのか。その1つの手段として「転職」という概念は機能し始めているとも考えられます。
日本では転職年齢の限界説が存在するかのように囁かれてきましたが、若年層の採用で苦戦する現代は、どのように変化しているのでしょうか。ここでは現在の転職年齢事情と共に、年齢関係なく採用されるための能力について解説していきます。
転職年齢限界説が幻になった!?
転職と年齢について調べると、「35歳転職限界説」は必ず見かける言葉の1つです。しかし、転職に具体的な年齢を制限する規制や決まりはありません。
業種によっては求人情報で年齢制限する場合ももちろんありますが、希望する転職ができるかどうかは、年齢より、その人材のキャリアやスキル、実績が重要視されます。
特に景気が好転している昨今では、若いだけでポテンシャル重視の新卒よりも、即戦力になる人材が求められる傾向にあり、それは30代後半から40代、50代でも実力があれば転職は十分に可能なのです。
35歳限界説が生まれた背景
ではなぜ、転職は35歳が限界という説が生まれたのでしょうか。
そもそも、転職35歳限界説が生まれた背景は、日本独特の雇用体系に加え、採用する企業側とそれをつなぐ転職情報サイトなどの事情が影響していました。
若手の方が人件費も安く使いやすい
日本独特の雇用体系である年功序列、終身雇用の時代であれば、若手人材を採用し時間を掛け育成する体力も経済力も企業側に備えられていたかもしれません。
しかし、めまぐるしく変化する現状でも若手を育てる基盤がある大手企業やグローバル企業などは、市場価値が高くなる前の有能な若手を学生の頃から青田買いするメリットはありますが、多くの企業は、そこまで採用に掛ける余裕はありません。
台頭してきたAI(人口知能)やIoT(モノのIT化)などの急激なビジネス環境の変化に対応するためには、既存の能力以外の人材への投資は必須です。
そのため企業にとっての採用活動は現在必要とする即戦力を確保し、会社の行く末を託す事業計画レベルの重要事項なのです。
能力があれば人材は若手である必然性はなく、必要な知識や実績、経験を用いて実行できる即戦力を純粋に求めているのです。現在は、未知数の可能性がある若手だけでなく、即戦力となり、能力を図ることのできる世代も、転職市場では重要とされているのです。
転職サイトのコンサルタントが若い
転職活動を行うにあたっては、転職サイトや、転職エージェントを利用する方が多いでしょう。
こういった転職サイトやエージェントで、キャリアコンサルタントとして働いている方は若い方が多く、対象とする求人案件も若手向けになりがちです。
ネット上での転職サイトで顕著なのが若手の求人に特化したサイトが多いことです。
ネットを一見しただけでは、中堅以上の年齢に合致する求人が少なく感じてしまい、転職を踏み止まることも多いかもしれません。
これは転職ネットサイトで働く人材に30代前半の若手が多いことから、担当する求人案件がどうしても同世代に偏る傾向になるのです。
キャリアコンサルタント自身が若手ポジションでしか働いた経験しかないのに、自分自身の上司の世代に対して、転職や求人ポジションのアドバイスは行いにくいですよね。
最近は35歳以上のマネージャークラスを扱う転職エージェントも増えています。転職情報をどのように入手するかも転職に必要な技術かもしれませんね。
転職年齢は高齢化の傾向
ある大手転職エージェントの調査によると2017年下半期に転職した人の平均年齢は32.1歳で、調査を開始した2007年下半期と比較すると、転職年齢は29.1歳から3歳ほど上昇しています。
転職年齢の内訳は以下のとおりですが、3番目に多く転職に成功した年齢層に「40歳以上」が入っていることをみても、転職年齢の高齢化が分かります。
つまり企業が欲しがる人材は即戦力であることは確かですが、それだけでなく、実行力のあるマネージメント能力についても期待されているということが推測されます。
<年齢帯別転職成功者の割合>
①「25~29歳」38.1%
②「30~34歳」23.8%
③「40歳以上」15.5%
④「35〜39歳」13.1%
⑤「24歳以下」9.5%
転職活動は将来の不安を払拭する手段
「平成 28 年雇用動向調査結果の概況」で、転職した人に前職を離職した理由を聞いたところ、その多くは労働条件や安い給料などが理由に挙げられるが、転職平均年齢である30〜39歳の男性の統計では、離職の一番の理由としては「給料が安かったから」につぎ「会社の将来が不安だったから」と答えています。
昨今のビジネス環境の変化に会社がついていけない場合、その会社に社員としてとどまることは、個人としての市場価値がストップすることを意味することに繋がるのではないでしょうか。
その傾向は特に求人の需要の多いIT・通信分野に現れています。
IT分野の求人倍率は5.44倍とダントツ!
次に直近の有効求人倍率を見てみましょう。2018年7月の求人倍率は2.25倍で、業種別にみると、IT・通信分野の求人倍率が5.44とダントツに高くなっています。
また職種別でのIT・通信分野での転職年齢は32.8歳で、転職する平均年齢とほぼ合致していることもあり、IT・通信分野ではこの年齢での転職率の活発化が示されているのではないでしょうか。
また年齢層だけではなくAIやIoT化の推進などに各企業がIT投資を強化しているため、システムインテグレータ部門での採用が特に活発になっている表れでもあります。IT業界の大手や事業会社のIT子会社などの求人も増えているため、IT・通信分野での転職希望者数がいくら増えても、求人数に追いついていない状況なのです。
IT人材は異業種で幅広く活用
IT人材が足りない理由は、IT人材は、IT業界だけでなく、自動車業界、金融など異業種でも必要とされているからです。
自動車分野では衝突防止システムや自動運転システム、カーステレオなどに電子制御技術をはじめとするカーエレクトロニクス化が進化し、従来の人材だけではなく、IT技術の知識が必要になっています。
また銀行を始めとする金融業界でも、急激な変革が迫られています。
2017年11月、メガバンクがこぞって大量の人員削減を発表し、経済界に激震が走ったのも記憶に新しいかと思います。
金融業界は、長期にわたるゼロ金利政策や、フィンテック(ファイナンス+テクノロジー)、仮想通貨の台頭など、ビジネス環境の大きな変革が、金融サービス業衰退に影響を与えたのは明らかですが、その結果、銀行機能は残っても銀行自体は消滅する可能性が明らかになってしまいました。
そのため従来の銀行業務のみで生き残ることは不可能なため、AIやIoTと共存、住み分けをしながら、大幅な事業の改革を計る必要があるのです。
まとめ
このように、10年前には存在しなかった技術や企業構造の変化が急速に起こっています。
さらにIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などITテクノロジーを活用した新たな商品やサービスも続々と生まれている中で、企業の多くは、生き残りを賭けて従来は社内に存在しなかったノウハウや考え方を取り込む必要性の現れとして中途採用に活路を見いだしているのです。
採用される側の人材も、現在のビジネス環境に沿うだけのキャリア構築だけでなく、今後10年20年と働き続けるために、AIなどのテクノロジーとの共存や住み分けを鑑みた明確なビジョンとキャリアアップを考える必要があるのです。